いろんな角度からものごとを見てみなさい、とか、視点を変えて考えなさい。
こういう言葉を仕事ではよく耳にすることでしょう。
では、「いろんな角度」「視点を変える」とは具体的にどんなことなのでしょう。
1つの方法として「対象としている出来事を、異なるジャンルの考え方で検討してみる」というのがあります。
たとえば、「三権分立」を「時間的思考」で検討してみることです。
「三権分立」とは、本来、国の仕組みを語る際の言葉です。
立法、行政、司法の三つが、それぞれ権力を分散させていることです。
立法とは、法律を作ることです。
行政とは、法律に則って政策を実行することです。
司法とは、世の中の出来事が法律に合致しているか裁定することです。
(すごくシンプルにしています。)
これを「時間的思考」に置き換えてみます。
立法とは、未来に関する行為である。
なぜなら、そこで作られる法律は、未来の自分たちが従うべきルールだからです。
行政とは、現在に関する行為である。
なぜなら、決められたルールに従って、日々を安定的に運営することだからです。
司法とは、過去に関する行為である。
なぜなら、すでに起った出来事を、ルールに照らして、その適否を判定しているからです。
つまり三権分立とは、きちんと未来を設計し、その設計を実行し、設計と実行を振り返る。
それによって、共同体をよい状態に保つための仕組みと言えます。
しかし、このバランスは崩れやすい。
「未来」と「過去」は目の前に存在しないからです。
人々の目の前にあるのは、つねに「現在」だけです。
未来や過去は頭の中にありますが、現在はつねに目の前にリアルに存在する。
だから、どうしても「現在」の事情に引きずられ、未来や過去とのバランスが崩れやすくなる。
ですから、現在を扱う行政府の長である「内閣総理大臣」が最大の権力を持つことになるのは、
時間的な枠組みで考えても極めて自然なことです。
三権の長という言葉は知っていても、時の衆参両院議長、最高裁判所長官の名前を知っている人は少ないでしょう。
ちなみに独裁とは「行政が立法権限をもつこと」だそうです。
この場合、未来のことは考えずに、現在を中心にルールを作って行くことを意味します。
当然、過去を振り返ることもなくなります。
つまり、思いついたときに、思いついたことができる。それが許される状態が独裁です。
独裁者の資質に共同体が大きく左右されることは明らかですね。
そういう不安定さを回避するための方法の一つとして「三権分立」があるのでしょう。
そしてそれは、「未来」と「現在」と「過去」をバランスよく繋げることを意味します。
さて、「三権分立」を「時間的思考」で見てみました。
違う角度から見たり、視点を変えると、それ以前とは異なって物事が見えてきたでしょうか。
では、この「三権分立の時間的思考」をさらに、別のジャンルに持ち込みます。
「会社の経営」や「仕事の仕方」です。(やっと「仕事のヒント」につながります。)
会社の運営や仕事の仕方にも、上の考え方を当てはめることが出来ます。
例えば、年度の事業計画を立てる、プロジェクトの計画を立てる。
これは、「未来」を設計する行為です。三権分立では「立法」に当たります。
日々、事業計画の達成に取り組む、プロジェクトを計画通りに進める。
これは、決められたことをきちんと「現在」に行う行為です。「行政」に当たります。
年度の終わりに、あるいはプロジェクトの終了後に出来事を振り返る。
これは、計画と「過去」に起った出来事のズレを確認する行為です。「司法」に当たります。
だとすれば、会社の経営や仕事の仕方においても、三権分立と同じ形式の問題があるはずです。
つまり、「現在」に引きずられ、「未来」や「過去」とのバランスが崩れることです。
計画が機能しないので計画を立てなくなる。つまり未来を考えられなくなる。
計画が存在しないので、有効な振り返りが出来なくなる。つまり過去の出来事はなかったことになる。
そして、目の前の出来事だけに必死に取り組んでいる。「現在」しかなくなる。
これは状態的には「独裁」といえるでしょう。
仕事の現場においては、悪意を持って、周りの人間たちを自分の好きなように扱いたい、
そういう意味での、独裁者は極めて少ないと思います。(一部のブラックにはいそうですね。)
基本的には、会社の経営や社員のこと、プロジェクトの成功を考えている。
しかし、上に書いたような「独裁者のいない独裁状態」が起ってしまうことがある。
これを封じる仕組み作り、人を育てることが、仕事をしていく上での1つのポイントです。
小さいけど、個々人が確実に出来ることがあります。
毎日の自分の仕事で、独裁状態が起こらないようにすることです。
1日の初めに、その日の過ごし方をきちんと計画する。(立法)
その日を計画を意識しながら過ごす。(行政)
一日の終わりに、計画と実際のズレを確認して、翌日に活かす。(司法)
目の前の現実の力はとても強いものです。「現在」はすぐに暴れ出します。
それを防ぐには「未来」と「過去」の力を借りることが必要です。
「過去」と「現在」と「未来」がつながることによって、出来事の意味がつながります。
出来事の意味をつなげる力,それが「時を作る力」ということになります。
また、こうなると「時間的思考」がどれだけのジャンルに当てはまるのか試したくなります。
様々なジャンルを横断することは「空間的」とも言えます。
時間をつなげたら、空間もつなげる。そうやって、キャパを広げていくことも大切です。